著者:E.K. Koh, Chief Product Officer
この 3 年で、ハイブリッド型試験や分散型臨床試験が新たな標準となり、患者体験の最適化に向けた取り組みが増えてきています デジタルヘルスツールがその改善の取り組みに貢献していることは間違いありませんが、まだ初期段階にに過ぎないことを認識することが重要です。 患者さんの負担を本当に軽減するためには、現在患者さんが抱える問題の解決に、テクノロジーツールがしっかりと向き合う必要があります。
患者さんが直面している課題の把握
臨床試験に参加する過程で、患者さんは登録の検討段階から継続的なアウトカム報告に至るまで、さまざまな課題に直面します。これらの課題は以下のように現れます。
- 被験者登録と臨床試験に対する理解: 患者さんは登録段階でしばしば大きな壁に直面します。例えば、自分の病状に適した試験を見つけること、試験について理解すること、複雑な同意文書を読み解くことなどが挙げられます。 これらの要素が重なり合うことで、患者さんが圧倒されてしまったり、混乱したりするプロセスが生じます。
- 積極的かつ継続的な参加: 登録後、患者さんはさらに、日常生活に影響を及ぼすような課題に直面します。例えば、通院の負担や仕事を休むための時間、関連費用などです。また、試験や治療の要件に対応することが、患者さんにとって追加の負担となる場合があります。例えば、オンコロジー試験における侵襲的な処置は痛みや合併症を引き起こすことがあり、その結果、患者さんの参加意欲が減退する可能性もあります。1。
- アウトカムの報告: 期限内に正確に質問票に回答することは、特に体調が悪い患者さんにとっては難しい場合があります。これは収集データの正確性に影響を及ぼす可能性があり、米国食品医薬品局や欧州医薬品庁などの規制当局で懸念されている事項であり、治験依頼者が十分に注意すべき点です2,3。
臨床試験における人間中心の視点
デジタルテクノロジーは、このような課題解決に貢献できます。 2019 年の Contemporary Clinical Trials Communications 誌による調査では、23 歳から 83 歳までの人の 88% がモバイルアプリケーションを問題なく使用していることがわかりました4。また、成人患者を対象とした別の調査では、ほぼ半数が医療従事者とのコミュニケーションにテクノロジーを使用したことがあると報告しています5。
患者さんのニーズを中心にデジタルツールを設計することは、患者さんが求める支援を提供し、同時に参加の負担を軽減する手助けとなります。 例えば以下のような方法が考えられます。
- 柔軟な来院とスケジュール設定: IRT は、複雑な治験実施計画書に合わせて、分散型およびハイブリッド型モデルで発生する物流の課題を効率的に管理できます。 試験チームは、患者さんの来院スケジュールをリアルタイムで調整でき、モバイルやオンライン技術を活用してリマインダーやスケジュール設定を簡単に行えます。 これにより、患者さんのスケジュール変更(たとえば、がん患者が体調不良で来院できない場合)に迅速に対応でき、患者さんが来院可能な日に必要な薬剤を準備しておくことも可能になります。
- 便利なアウトカム報告: データ収集時に患者さんが自宅にいない場合、紙に手書きで症状を記録したり記憶に頼ったりする代わりに、eCOA を使用することで、患者さんはどこにいても試験の質問票に回答することができます。 この柔軟性は、患者さんのサポートとなり、データの正確性向上にもつながります。 さらに、IRT と組み合わせることで、治験実施施設は患者データに基づきリアルタイムで薬剤の投与量を調節することもできます。
- アクセシビリティの向上: JAMA の研究によると、同意文書を読みやすくすることで、患者さんのアクセシビリティを向上させる可能性があると示されています6。例えば、eConsent ツールを使用することで、患者さんやその介護者は、どこにいてもどの言語でも同意文書を確認できる柔軟性が提供されます。 試験への理解を深めるために、FAQ や状況に応じた説明を追加することも可能です。
患者中心の取り組みに対する包括的なアプローチ
これらのツールは試験の負担を軽減する一方で、治験実施施設がそれぞれ別々のテクノロジーシステムを管理すると、ワークフローや全体的な患者体験に混乱を招く可能性があります。 エンドツーエンドのソリューションは、患者さんと治験実施施設の双方のニーズに基づき、参加に伴う負担を軽減するだけでなく、患者さんを試験プロセスの中心に据えることを支援します。。
eConsent、IRT、eCOA がシームレスに連携する統合プラットフォームでは、患者さんとスタッフが複数のシステムを個別に操作する必要がなくなります。 このアプローチは、同意取得からデータ提出までの試験プロセス全体を合理化し、患者さんの固有のニーズや希望に沿った調整を行うことができます。患者さんの試験体験は、オンラインでの同意に始まり、次いで適格性のスクリーニングと被験者割付が行われます。これらはすべて同じシステム内で行います。 分散型臨床試験では、自宅での来院が管理しやすくなり、患者さんに必要な薬剤やデバイスが必要なタイミングで届くようになります。 健康アウトカムを報告する時期になったら、患者、介護者、または臨床医は、使い慣れたプラットフォームに戻ればよいだけです。 1 つのシステムが患者体験を向上させるだけでなく、試験チームのワークフローも最適化します。
この患者中心のアプローチは、臨床試験に参加する負担を軽減し、最終的には患者一人ひとりが試験プロセスの重要な一部であると認識させることにつながります。
参考文献- Wong, A.R., Sun, V., George, K., et al. “Barriers to Participation in Therapeutic Clinical Trials as Perceived by Community Oncologists.” JCO Oncology Practice 16, no. 9 (2020).
- “Core Patient-Reported Outcomes in Cancer Clinical Trials: Guidance for Industry.” Food and Drug Administration. June 2021.
- “Appendix 2 to the guideline on the evaluation of anticancer medicinal products in man - the use of patient-reported outcome (PRO) measures in oncology studies.” European Medicines Agency. 2014.
- Perry, Brian, Cindy Geoghegan, Li Lin, F. Hunter McGuire, et al. “Patient Preferences for Using Mobile Technologies in Clinical Trials.” Contemporary Clinical Trials Communications. 2019.
- Lee, Joy L., Rawl, S.M., Dickinson, S. et al. “Communication about Health Information Technology Use between Patients and Providers.” Journal of General Internal Medicine. 2020.
- Emanuel EJ, Boyle CW. “Assessment of Length and Readability of Informed Consent Documents for COVID-19 Vaccine Trials.” JAMA Network Open 4, no. 4 (2021).
著者
E.K. Koh
Chief Product Officer
Suvoda