著者:Henk Dieteren, Clinical Trial Supply Consultant
これは「供給効率向上のための IRTを使った変革」に関する 3 部構成のウェビナーシリーズの第 2 部で、Henk Dieteren 氏、Amaury Jeandrain 氏(N-SIDE 社 Clinical Supply Chain VP Strategy、Life Sciences)、Kamal Amin 氏(Galderma 社 Head of Supply Chain Management)が登場します。 この第 2 部では、臨床試験における医薬品供給とそれに伴うコストを適正化するための戦略を詳しく解説します。
臨床試験市場は、2023 年から 2030 年までの間に 5.8% の成長率で成長すると予測されており、在庫と治験薬供給、そしてそれらに関連するコストも増加しています1 。治験薬供給を適切に行うことはどのような試験においても明確な目標ですが、McKinsey 社の調査によると、予測と計画が不十分なために治験薬(IMP)キットの最大 50% が無駄になっている可能性があると報告されています2 。余計な浪費は、治験の実施にかかる高いコストに影響を与えるだけでなく、製薬企業やバイオテクノロジー企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)の目標を達成することを妨げる要因にもなります。
試験ごとの特定のニーズに対応できるIRT(Interactive Response Technology)は、供給レベルを効率的に管理し、臨床試験の供給コストを適正化し、治験薬の物流を現場で簡素化するパワフルなツールになり得ます。
「供給効率向上のための IRTを使った変革」ウェビナーから抜粋したこの動画では、臨床試験固有の要件に合わせた IRT システムが、いかにして試験チームに大幅なコスト削減をもたらすかについて議論しています。
治験薬供給を最適化するためのIRT の柔軟な活用
柔軟で動的な IRT システムが治験実施計画書の具体的な細かい部分に対応するように設計されていれば、治験薬供給を効率的に最適化することができます。
試験チームは IRT システムを使って、国ごと、来院ごとに出荷しない(Do Not Ship:DNS)、在庫としてカウントしない(Do Not Count:DNC)、交付しない(Do Not Dispense:DND)値を設定することもできます。 このような設定は、来院スケジュールが変動する試験において、薬剤の使用とそれに伴うコストに大きく影響する可能性があります。 薬剤供給の使用期限を管理し、異なる使用可能期間に基づいて DNS、DNC、DND の日付を定義できることにより、試験チームは柔軟に対応でき、有効なキットが無駄になることを防ぐ助けとなります3。
実際の使用ケースにおいて、N-SIDE 社のクライアントが試験用に特徴的な 2 つの IRTの設定を評価しました。 1 つは DNS、DNC、DND を動的に設定できるセットアップで、もう 1 つはこれらのパラメータを静的に設定するセットアップでした。 動的な IRT 設定は素晴らしい結果をもたらし、供給にかかる総予算の約 25%に当たる600 万ドル を削減することができました。
「Do Not」値に対する動的な IRT 調整に加えて、予測アルゴリズムと薬剤バッファ活用することで、薬剤供給コストを削減できます。 ウェビナーの以下の部分では、予測アルゴリズムとバッファがどのように機能し、供給が適正化されるのかを確認し、これらのアプローチの利点と課題について議論しています。
治験薬供給を最適化するためのさまざまな戦略の評価
薬剤バッファと予測アルゴリズムの組み合わせは、薬剤供給を最適化する効果的な方法です。 また、今日広く採用されている標準的なアプローチでもあります。 バッファはランダム化や滴定などの予測不可能な事象に対応するために重要であり、予測アルゴリズムはランダム化後の将来の投与に関する来院の予測に優れた性能を発揮します。 この組み合わせは、臨床試験の動的なフェーズにおいてきわめて重要です。 被験者の募集が終了し、治験実施施設の体制が整い、試験が安定した段階に入ると、予測アルゴリズムだけで十分な場合もあります。
予測分析は、単独にせよ組み合わせにせよ、臨床試験プロセスを合理化し、コストを最小限に抑え、臨床試験のアウトカムを改善する大きな潜在能力を持っており、研究の加速を目指す製薬企業の間で急速に注目されています。 治験薬供給以外の分野では、例えば、新型コロナワクチンの開発者が予測分析を使い、将来的に感染が広がる可能性のある地域(ホットスポット)を特定し、理想的な臨床試験実施地として活用しました。 その結果、通常の試験よりもはるかに迅速に、そして多くのデータを収集して試験を完了させ、ワクチンの承認を早めることができました4。
今後、特定のルールを基に治験実施施設の供給を自動化するスマート予測アルゴリズムの導入により、さらに効率的な薬剤供給の自動化が実現する可能性があります。これにより、薬剤バッファと予測アルゴリズムの組み合わせを超える成果が期待できるでしょう。
臨床試験におけるサプライチェーン効率の最大化
柔軟に使えるIRT システムを選択することで、サプライチェーンの供給を最適化し、コスト削減と無駄の排除が可能となります。また、プロセスが自動化されるため、複雑なロジスティクスに頭を悩ませる時間を減らすことができます。
ただし、テクノロジーはそれを適切に実行するための計画やプロセスがあってこそ、その真価を発揮します。 したがって、試験の開始段階から供給に関する計画を立てることが非常に重要です。試験デザインの段階では、研究の誠実性を最優先にしつつ、供給とコストのバランスを考慮してデザインを決定することが求められます。
Henk、Amaury、Kamal による「供給効率向上のための IRTを使った変革」のウェビナー全編にて、治験薬供給を最適化するための専門的な戦略に関するディスカッションをご覧ください。
参考文献- “Clinical Trials Market Size, Share & Trends Analysis Report By Phase (Phase I, Phase II, Phase III, Phase IV), By Study Design, By Indication (Pain Management, Oncology, CNS Condition, Diabetes, Obesity), By Region, And Segment Forecasts, 2023 - 2030.” Grand View Research.
- “Clinical supply chains: How to boost excellence and innovation.” McKinsey & Co, November 2021.
- “IRT optimization in clinical trials: achieving maximum efficiency.” N-SIDE, September 2022.
- “Behind Covid-19 vaccine development.” MIT News, May 2021.
著者

Henk Dieteren
Clinical Trial Supply Consultant, Suvoda